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北日本の縄文時代墓制における地域的特徴の解明とその社会的・象徴的意味の再検討

  • 北日本の縄文時代墓制
  • 基盤研究C_16K03168

1.経緯と本研究の目的

  •  東北北部から北海道中央部にかけての北日本には、青森県三内丸山遺跡や秋田県地方遺跡など数百基の墓で構成される大規模な墓地、石狩低地帯の周堤墓群や秋田県大湯環状列石など大規模な土木工事を伴う墓域、北海道カリンバ遺跡や青森県上尾駮(1)遺跡などにみられる漆塗りの櫛や硬玉製玉類を用いた装身具の副葬など、縄文時代の祭祀や葬墓制を関する著名な遺跡が数多く発見されています。
  •  1990年代以降は、それらの資料をもとに、縄文時代の社会の複雑化を推測する階層化社会説をめぐり議論が盛んに行われてきました。私もBrian Haydenの社会の複雑化モデルに触発され、北日本の縄文時代後期や晩期にその可能性を指摘してきました。しかし、北日本という大きな空間スケールで一括して墓制の特徴や変遷を説明し、解釈してきた点に大きな落とし穴があったのです。墓制の様相はそのモデルを満足させるほど一様ではなく、現在まで階層化社会説に対する賛否両論が対立するのは当然の結果でした。
  •  自分の研究の停滞の大きな原因は、墓制の地域性を考慮せずに、人間社会の進化という大きな時空間スケールで社会を論じる社会階層化モデルを複数の地域墓制の集合体の全体に適用したという、理論とデータの時空間スケールのミスマッチにあったと考えています。北日本の墓制を異なる特徴を持つ地域墓制の集合体と捉え、階層化社会説は一旦棚上げし、墓制に付与されていた社会的・象徴的意味を地域社会ごとに考察する研究を進める必要があります。これが本研究に取り組むまでの研究の経緯です。

2.研究の目的

 上記の認識にもとづき、今回の研究の目的を3つ設定しました。

(1) これまで「東北北部」や「北日本」という大きな空間スケールで説明されてきた縄文時代の墓制のより小さな地域的特徴を定量的にできる限り可視化して提示する。

(2) 墓制の地域的・時期的特徴の一つとして「墓制の複雑度(あるいは多様性)」、すなわち一つの地域墓制が示す変異の程度に注目し、地域墓制の全体像の理解を深める。

(3) 墓制の地域的特徴の社会的・象徴的意味の考察では、墓制に現れた差異の要因を推定するために必要な社会状況に縄文墓制の歴史的解釈の更新をめざす。

なお、このサイトのキャッチフレーズ「既知のデータから未知の過去を推論する」は、三中信宏さんの著書『統計思考の世界』(2018年、技術評論社)を参考にさせていただきました。