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装身具の副葬比率の違い、人口変動と墓制の変化

  • 北日本の縄文時代墓制
  • 基盤研究C_16K03168

 装身具の副葬比率(下図)では、土坑墓の平面形(楕円形、円形)で格差が生じている地域があります。北海道中央部、津軽・青森地域、八郎潟・秋田地域では、基本的に楕円形土坑墓のほうが副葬品の保有比率が高く、晩期中葉の大洞C1式・C2式期にむけて格差が拡大している可能性があります。また、北海道中央部では晩期中葉に円形土坑墓の装身具の副葬率が上昇する現象がみられます。対照的に、八戸・二戸地域と米代・森吉地域では、楕円形と円形の両方で副葬比率が低いようです。

 人口変動との関係を考えるとこの折れ線グラフについてさらに興味深いことがいえそうです。土坑墓の時系列データや複雑度の分析で示した地図を参考にすると、上の折れ線グラフの左側の地域は縄文晩期前半に人口が増加傾向にある地域です。一方、右側のグラフの地域は維持か減少傾向にある地域です。つまり、人口変動が墓制の変化要因である可能性があるということです。これは墓制の意味を解釈するための重要な背景情報です。

ここで、簡単なまとめとして次の3点を指摘しておきたいと思います。
①人口増加は墓にみられる格差が顕在化する要因になるかもしれません。北海道中央部、津軽・青森地域、八郎潟・秋田地域では、人口増加に伴い装身具の副葬格差が増大した可能性があります。今回はグラフを示していませんが、赤色顔料の撒布にも同様の格差拡大傾向がみられます。また、縄文後期前葉(約4000 calBP)の環状列石では列石内に埋葬される人とそうでない人という場所の区別があり、これは埋葬場所の格差といえるでしょう。


②人口増加は、墓地の大規模化の要因でもあるようです。縄文前期後葉(約5700 calBP)の土器棺墓の増加、後期前葉の環状列石の構築や、晩期中葉(約3000 calBP)の数百基の土坑墓をもつ大規模墓地の出現は、人口増加がみられる地域で生じていた可能性がある。それは下に示した折れ線グラフをみるとよくわかります。


③一方、人口増加が墓制の格差増大の要因とならない場合もあることは興味深いことです。晩期前葉から中葉の八戸・二戸地域や中期末(大木10式)の米代・森吉地域にがこれに該当すると考えています。